オリジナル弓の製作


オリジナル弓の製作弓完成全体1.jpg2011.3.1オリジナル弓の完成

すばらしい胡弓の弓から学ぶもの

伯育男製作弓全体.jpg越中おわら節の唄の名手であり、長年、おわら胡弓と弓の研究・製作をされてきた伯育男氏製作の弓横井みつえ様弓1.jpg名古屋胡弓の名手澤田孝子先生所有の弓、この弓は故横井みつゑ師使われていました。

これらに共通しているのは、①先端の曲がり部分が最も細い。弓のしなりは、この細く曲がった部分で生み出されています。やわらかさと、トレモロなどを奏でたときや、毛を弦に瞬間的に強くあてたときなどの衝撃や、余分な固有振動を吸収するようです。

伯育男弓の首.jpg伯育男氏製作の弓の曲がり部分.ここまで細いにもかかわらず、腰と弾力性を備えており、二枚の竹が張り合わされています。澤田孝子様所有弓.jpg澤田孝子先生所有、故横井みつゑ師が使用された弓の先端の曲がり部分

②この曲がった部分を含めて、弓の先端から中央あたりまでは、竹を2枚張り合わせて作製してあります。細くても、しっかりと腰があり、竹のばねが利いた作りです。特に曲がりの部分は、箸の先端3分の一あたりの細さです。

一枚の竹なら、たわんで使えないほどです。2枚張り合わせることによって、この特徴が生まれます。一枚の竹から作り出された弓も、多く見られますが、曲がりの部分をここまで、細くすることはできません。他方、弓の張力によって、弓の先端から中央あたりまで、たわんでしまい、固有の振動や、押し付けたときに弦に対する反発力が演奏時に生じます。

先端部分の曲がり具合.jpgオリジナル弓の先端部分1先端毛架け1.jpgオリジナル弓の曲がり部分2

こ曲がり部分は、ナイフで細くしていきます。そして、先端を指で上下に動かして、他の部分とこの曲がり部分との弾力を比較します。ほとんどのたわみを、この曲がりの部分が受けるところまで、グラインダーで削り、追い込みます。演奏時指でひっぱるかなり強い張力でも、折れないと思われるギリギリまで追い込みます。

さらに、伯育男様製作の弓は、弓の重心を最も弾き易いように、とってあります。それは、弓をほとんど握らなくても、引力で滑り落ちるように、弦に毛の部分が接触するように作られています。これらの、すばらしい弓の真髄に学びながら、先端および毛元部分に、弓と毛束が一体感になるような私なりのオリジナルの工夫を取り入れ、弓を製作しました。

ジョイントし完成した弓全体.jpg弓の部分の全体。握りの部分は丸い細竹を使用。先端は2枚の平版の竹ひごを使用。この二つの部分が中央やや左部分で、ジョイントされています。

曲げ初期1.jpg弓の先端の作成。二枚の平版竹ひごを、はんだごてで、熱してまげていきます。二枚同時に曲げているのは、二枚の曲がり具合を近い状態にして、張り合わせるためです。先端削り1.jpg二つの竹ひごを直角ほどに曲げて張り合わせ、曲がった部分を細くしていきます。弓曲げ2.jpg二枚張り合わせた中央やや左側を、緩やかに曲げていきます。弓曲げ1.jpgはんだごてを、張り合わせた表裏に当てながら曲げていきます。
弓先端全体1.jpg曲げられた先端部分の完成です。弓元初期1.jpg握りの部分。今回は丸い細竹を使いました。ジョイント部分初期1.jpgジョイントの部分。左が曲がった先端部分を差し込む竹筒です。弓元のジョイント部分の補強1.jpg握りの竹の端を、浅く二本の切込みを入れる。弓元ジョイント補強2.jpg切り込みの間を、彫刻刀で、削りとる。
弓元ジョイント補強3溝に糸を巻く.jpg削られた部分に、糸を巻き割れないように補強する弓元補強4巻いた糸にアロンアルファを流す.jpg糸にアロンアルファを流し込み、さらに紫檀の削り粉をまぶして補強するDSCN0307.JPGこの紫檀の粉をまぶして、アロンアルファを流し込み、やすり・サンドペーパーで、こすると糸の周りがきれいにコーテイングされます。ジョイント前の元と先.jpg削りとられた部分を、糸で補強し紫檀粉とアロンアルファで、コーテイングしたジョイント部分ジョイント上部に竹ピンを入れ補強.jpgジョイント部分。真に竹の菜箸の一部を利用。
ジョイント内部に入る竹にチョークを塗って差し込み調整1.jpgジョイントの芯が竹の内部に、ぴったりかみ合うように、チョークで芯に色を塗り、かみ合わせては、チョークがこすられた部分をやすりで削り、内径を合わせていきます。ジョイント部分完成.jpg何度も調整し、ようやくぴったりジョイントしました。先端部分も取り付けました。ジョイントし完成した弓全体.jpgこうして、弓の曲がり部分と握り部分が完成しました。このあたりに錘を入れて予定.jpg今回は、握り部分に、黒檀などではなく、軽い竹を使いました。そこで、この指先の辺りに錘を入れることにしました。(実際は、毛の完成後、調整演奏を繰り返して、錘を入れました。この作業は、もっと後半に行いました。)弓元に8分の3インチのネジを錘に使用、筒に入れる.jpg(実際は、この時点でこの作業をしておりません。後述する調整演奏後の製作過程でおこないました。)8分の3インチのボルトをいれました。
さらにハンダを流し込む.jpgさらに、ハンダを流し込みました。DSCN0308.JPG紫檀の粉をいれ、アロンアルファを流し込みます。錘を入れた後竹で塞ぐ.jpg竹棒で塞ぎました。DSCN0298.JPG(この工程は、毛の完成のあとになります。)ピンを入れる部分に穴を開けます。DSCN0299.JPG握りの部分に、毛元を結びつける割れピンとリングを取り付けます。

DSCN0301.JPG割れピンを横に広げます。DSCN0302.JPG縦に直します。毛束.jpg毛束から、必要な量を取り出します。これまでに、30本ほど作製しているので、毛の量は、つまんだ時の勘で決めました。毛の部分の両先端のピンとリング.jpg毛の両端に取り付ける割れピンにリングを通したものピンの先端を切断し開く.jpgピンの先端を切断し、曲げた後に、毛を傷つけないために、切断先にやすりがけをして、丸くする。
DSCN0277.JPG毛束から、今回の弓の分を取り出しているところ。毛束を括っている、十箇所余りのくくり糸を、順番にほどき、必要分の毛を取り出し、毛束の法をまたくくる。という作業を繰り返して、必要量の毛を取り出します。毛束全部をほどくと、大量の毛が拡散し手におえなくなります。DSCN0279.JPG毛の先端をそろえます。開いたピンの先端をやすりで丸くする.jpg開いた割れピンをそろえた毛の中に入れ、糸を何十にも巻きつけます。

DSCN0291.JPG毛とピンに何十にも巻きつけた糸にアロンアルファを流し込みます。
DSCN0282.JPG巻かれた糸がアロンアルファで補強され、毛の片方の端ができ上がりました。
DSCN0284.JPG束ねた側から何回も,櫛を入れ、毛のねじれを直していきます。DSCN0292.JPG毛を上から吊るして、下に引き伸ばしながら、5センチ程度ずつ、括っていきます。DSCN0285.JPG括った様子DSCN0288.JPG8箇所ほど括ると、もう片方の毛束の先にたどり着きました。括られていなし端をそろえます。DSCN0289.JPG毛先がそろいました。
DSCN0290.JPG先ほどと同様に、広げたピン先と毛束を糸で括り、アロンアルファで固め魔手。毛束を上からつるしてくくり作業をおこなう.jpg括った糸をほどきます。DSCN0294.JPGくくり糸を全部ほどきました。ねじりや広がりがほとんどない状態です。うまくいきました。DSCN0295.JPG早速、毛を弓の先端かけます。ヒートンは使いません。DSCN0296.JPG毛のもう片方を弓に沿って伸ばし、手元の穴の位置を決めます。
8毛の端から4~5センチ先の握り部分に印をつけます。穴を開け、割れピンとリングを取り付けます。(写真では、毛の作製の前に記載しましたが、実際は毛の完成以後の工程です。)

重心とピンの距離135ミリ.jpg毛とリングを結んで、仮の調整をはじめます。

釣り合いの重心を図る・・毛と弓の角度1.jpg衝立の上にのせ、重心の位置を確かます。弓より毛が下がっており弓と毛を結んだ角度はよさそうです。
おわら弓釣り合い2.jpg参考・・・おわら胡弓の弓(伯育男氏製作)は、弓本体より毛束部分が下に来ている。また、右手の握りのわずか前に弓全体の重心が来ています。

角度1.jpg弓本体より毛の方が下がらないと、演奏のときに、毛の部分を小指・薬指・中指で下から持ち上げないといけないので、手首にも無駄な力が入り、柔らかでスピード溢れる弓遣いができなくなります。イラストは理想的な弓と毛の関係

角度3.jpg弓より毛が下がるのは、もっと演奏しにくいです。

角度2.jpg弓と毛が平行でもだめです。

釣り合いの仮調整後演奏のために1松脂を塗る.jpgこの時点で、松脂を塗り、調整のための演奏を行う。
調整演奏2.jpg調整と演奏を繰り返す。曲がり具合・重心の位置・弓の重量・毛先と弓先の位置など多方面を調整。

演奏後の再調整中央.jpg弓のジョイントに近い部分を曲げます。毛の方向に、重心を移動するために、内側に曲げます。

演奏後の再調整2.jpg先端がわずかに下向きになるようにねじれを入れます。
先端のねじり曲がり具合1.jpg先端のねじり具合の確認、わずかに先端が右側に曲がっています。このほうが、重心が調整できたのち毛の部分が弦に、いっそう自然に触れて移動しやすのです。2000年に八尾の伯育男様を訪ねたとき、「弓先がほんのわずかに右さがりがよい。」と言われていました。

握らず演奏1.jpg非常に重要な、ポイントです。握らず掌に弓をのせたときに、毛束が下に来るように重心がとってあると、このまま弦をこすることができます。

釣り合いを確かめる1.jpg衝立の上に弓をのせて釣り合う位置を確認しました。重心一からピンまで276ミリ.jpg握りのピンとリングの位置から重心の釣り合いの位置まで276ミリもありました。弓の握る位置から後ろが非常に軽いので、重心が弓の先端よりになっているのです。握りの部分も竹を使ったため、軽くなっているからです。

ここで、前述した錘を入れて調整しました弓元に8分の3インチのネジを錘に使用、筒に入れる.jpgさらにハンダを流し込む.jpg

重心を図る2.jpg再度重心の位置を計ります。

重心とピンの距離142ミリ.jpg錘を入れたため、重心が後ろに移動し、ピンから釣り合っている位置まで140ミリくらいになりました。これは100ミリあたりの場所を右手で握ったときに、5から6センチ先に重心があることになり、まずまず弾き易い重心の位置だと思います。

弓と毛の距離1.jpg弓と毛が離れすぎていました。トレモロ演奏やテンポ150前後の16分音符の演奏時、弓の中央あたりで、固有振動が生じやすいです。これを解決する方法の一つにy毛と弓本体の距離を短くする方法があります。そのためには、弓の竹の部分を外側に反らせて曲げる方法と、先端をより弓本体に近づけて毛を留める方法があります。今回は、後者を選びました。弓先端切断.jpg弓の先端を切断、弓先のリングをはめる溝を作ります。弓完成全体2.jpg先ほどより、かなり弓本体と毛が地近づきました。塗装乾燥黒1.jpg黒色で下塗りしました。

和紙を張り、金色の粉をまぶしクリアーニスで塗装。

ジョイント先端1.jpg

ジョイント完成3.jpg先端根元和紙1.jpg

弓毛の先端和紙1.jpg弓元輪2.jpg弓先端完成全体2.jpg

先端をヒートンを使わずに留める方法は、私のオリジナルです。先端毛架け1.jpg先端に直接毛先のリングをかけます。

この方法では、弓本体の竹のばねと毛が一体となり、弓を握り指を毛に添えたとき、竹のばねと毛の張力が一体となって感じることができ、演奏に反映することができます。

従来の弓・・・ヒートン使用で弓本体と毛束が一点で接触している。

弓ヒートン支え2.JPG

弓先端ヒートン型.jpg従来の先端ヒートン型のイラスト

 このため、弓本体の竹のばねのエネルギーが一点のみの伝達になり、多様な方向とパワーを備えた竹のばねの効果を伝達しにくい。他方、この一点のみの伝達は、余分な力をそぎ落とし繊細な表現の効果が生まれると考えます。

弓ヒートン支え1.JPG先端支点回転図.jpgヒートンと毛先リングが一点で接触している。

先端毛架け2.jpgわずかにリングがはまるように溝が彫ってあります。

私は、毛先リングを直接弓の先端に取り付け、竹の多様なばね効果を取り入れる弓を製作し、使用することが多いです。芯のある太い音色と竹のばねを取り入れたやわらかい音が出せるという利点があります。繊細さも、弓の一番細い首の部分の弾力を生かした表現できます。また、弓の首の部分の加工にも工夫しています。

江戸打ちひも.jpg握りの部分の紐は、江戸組紐をしよう。弓紐結び4.jpg弓本体と毛のリングを結びます。

弓日も結び5.jpg毛元の部分に巻きつけます。弓日も結び7.jpg巻きつけた中央に、紐先がきます。

この結び方が、オリジナルです。

弓日も結び8.jpgのびた紐を弓本体に結びます。

弓日も結び11.jpg毛元と弓本体との結びが完成です。毛元と弓本体がしっかりと結び付けられています。

弓毛根元紐支え1.jpg従来の毛元の結び方

手元回転図.jpg毛元が弓本体と細い糸で結ばれていると、先端のヒートンの一点の支点と同じような力の伝達が生じるようです。
弓完成弓元2.jpgこの部分の紐が太いほうが、弓本体との一体感が生じることに気づき、このような結び方をするようになりました。弓本体の竹のばねも生かすことができます。弓完成全体ねじれ2.jpg

弓全体のねじれをみます。

弓完成もとの修正1.jpg演奏しながら、毛元の位置をずらして、演奏しやすいように整えます。

オリジナル弓の完成です弓完成全体2.jpg